【労災になる?】工事現場で作業中に別会社作業員の暴行でケガ

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工事現場では、いくつもの会社の労働者がそれぞれ別々の作業をしていることが珍しくありません。
ある会社の作業員が脚立の上で配管の接続作業をしていたところ、配管の清掃作業を行なっていた別の会社の作業員にエアガンでお尻を撃たれ、呼吸困難になって脚立から転落しました。
大腸を全部摘出し人工肛門となる大きなケガをしました。
労災申請をしましたが、労働基準監督署長が労災と認めず労災保険給付の不支給決定をしました。
不服申立てをしましたが労災保険審査官も認めませんでいた。
さらに労働保険審査会に再審査請求をして、やっと労災と認められた事件があります。

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労災保険給付を受ける要件【業務遂行性と業務起因性】

労災保険で業務災害と認められるための要件(2つとも満たすことが必要)
業務遂行性 労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態で起きた災害であること
業務起因性 業務と疾病等との間に一定の因果関係(相当因果関係)にある災害であること

仕事中の(業務遂行性がある)災害であり、ケガや病気の原因である事故が仕事に起因して(業務起因性がある)生じたものである場合、業務災害と認められます。

たとえば、作業場で働いていてその作業でケガをしたという場合は、業務災害として労働災害と認められます。

しかし、仕事中に起きた事故であったとしても、ケガをした労働者の私用(私的行為)で事故が起きた場合は、業務災害とは認められませんから、労災保険から給付は受けられません。

勘違いされやすいことですが、仕事中にトイレで用を足したり、仕事中にのどがかわいて水を飲むなどの行為は私用(私的行為)ではありません。

トイレや水を飲むなどの生理的行為は、業務に付随する行為となります。

会社で仕事時間中にトイレに行ったら床がぬれていて滑って転んでケガをした。

こんな場合は、業務災害として労災保険の給付を受けられます。

事業主の支配・管理下で業務に従事している場合でも、業務災害と認められないケース
1 労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、
または業務を逸脱する恣意行為をしていて、それが原因となって災害を被った場合
2 労働者が故意に災害を発生させた場合
3 労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
4 地震、台風など天災地変によって被災した場合
(ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます)

労災保険給付の概要「業務災害・通勤災害について」 厚生労働省

【他人の暴行によるケガ】業務外の要素(私的怨恨・挑発行為など)がなければ業務上災害

【他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて】厚生労働省(基発0723第12号)

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他人の故意による暴行によるもので労働災害とされない場合
個人的なうらみ(私的怨恨)で暴行を受けた。
自招行為で暴行を受けた。(例)殴る勇気もない弱虫のくせにやれるもんならやってみろ!などと挑発(挑発行為)
明らかに業務に起因しないものにより暴行を受けた。

このような、業務外の要素がなければ、他人の暴行によるケガは業務上災害になります。

他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて

(平成21年7月23日)
(基発0723第12号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

標記については、従来、個別の事案ごとに業務(通勤)と災害との間に相当因果関係が認められるか否かを判断し、その業務(通勤)起因性の有無を判断してきたところであるが、今般、近時の判例の動向や認定事例の蓄積等を踏まえ、以下のとおり取り扱うこととしたので、了知の上、遺漏なきを期されたい。

業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって、他人の故意に基づく暴行によるものについては、当該故意が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き、業務に起因する又は通勤によるものと推定することとする。

他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて
(平成21年7月23日)
(基発0723第12号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

仕事中の他人による暴行(労働保険審査会裁決[平成29年労第307号])

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この記事の冒頭に書いた業務災害の労災事故による労働保険審査会の裁決の話です。

ある会社の作業員が脚立の上で配管の接続作業をしていました。

この作業中に、配管の清掃作業を行なっていた別の会社の作業員にエアガンでお尻を撃たれました。

配管の接続作業を行なっていた作業員は、呼吸困難になって脚立から転落しました。

救急搬送されましたが、大腸を全摘し、小腸の端を体外に出し、パウチを取り付ける手術を受けましたが、人工肛門となりました。

大ケガをした作業員の方は労災申請をしましたが、労働基準監督署長が労災と認めませんでした。

審査請求をしたものの労災保険審査官は業務災害と認めず、再審査請求をして労働保険審査会で業務災害と認められました。

請求人・原処分庁の主張の要旨や審査会の事実認定などは略されているのですが、労働保険審査会「業務上外(平成30年裁決)」「29労307」から裁決(平成29年労第307号)を読めます。

仕事中の他人による暴行【業務遂行性】

本件災害につき、業務遂行性が認められるか否かについてみると、

請求人は、

「加害者から1回目に撃たれたとき、脚立に上がり配管を接続する作業を行っていた。

その後、再び脚立に上り配管の接続を始めた後、再度エアガンで撃たれた。」

旨述べ、

加害者も、
「請求人が脚立に上り、配管の取付作業を行っていたのを見かけ、目の前に請求人の尻が見えたので、咄嗟に1回 エアガンを撃った。請求人は、そのまま配管の取付作業を始めたので、もう1回エアガンで撃った。」

旨述べていることから、

本件災害発生時において、請求人は脚立に上り配管の取付作業に従事していたことが認められ、業務遂行性があったものと判断される

仕事中の他人による暴行【業務起因性】

本件災害につき、業務起因性が認められるか否かについてみると

請求人は、別の下請業者の作業員である加害者が本件工事現場において高圧空気を利用したエアガンを用いて配管の清掃作業を行っている付近で、配管の接続作業に従事していたものであり、

加害者と協働関係をもって作業を行っているため、作業中において、誤作動、誤操作及び誤使用その他これらに類する原因によって生じた不慮の災害により、エアガンから噴射される高圧空気を突発的に浴びて思わぬ負傷を被ることは、日常経験的に全く予想し得ないものではないから、

請求人の業務にはエアガンの高圧空気によって負傷する危険が内在ないし随伴していたものということができる。

そして、加害者は、請求人に向けてエアガンを噴射したことについて、「請求人を脅かしてやろうといった気持ちであった。」と述べていることから、加害者の当該行為はエアガンを誤使用して行った加害者の一方的行為であって、

請求人に落ち度は全くなく、請求人の挑発行為ないし自招行為によるものとは認められない

また、請求人は、「加害者とは友人関係にあり、これまで、プライベートでも仕事上でも口喧嘩などもめたことはなく、本件災害時にも口喧嘩となることはなかった。」旨述べ、加害者も、「請求人とは親しい間柄であり、プライベートで喧嘩をしたことはない。」旨述べていることから、

加害者の私的怨恨に基づく行為とみることもできない

以上に認定した本件の事実関係の下においては、

本件災害は、私的怨恨や自招行為その他明らかに業務に起因しないものには該当せず、請求人の業務に内在ないし随伴していた危険が具体化したものと認められ、業務起因性があるものと判断される。

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【編集後記】

業務災害として認められるのか?認められないのか?

業務災害であるかどうかは、業務遂行性・業務起因性の要件を2つとも満たしているかどうかで決まります。

しかし、業務遂行性・業務起因性を満たしているかどうかの判断は明確ではありません。

どうせ業務災害と認められないだろうから労災申請するのはやめよう・・・などと諦めてしまわないようにしましょう。

今回の労働保険審査会の裁決を読むと、業務災害として労災保険から給付を受けられるのは当たり前だとわかります。

しかし、労災申請をした労働基準監督署からは業務災害ではないといって不支給の決定をしたのです。

そして、不支給の決定はおかしいと審査請求しても労災保険審査官から不支給の決定は間違っていないとされたのです。

業務災害だと思うのでしたら、労災申請しましょう。

もちろん、資料をしっかりと準備して申請に臨むのは大事ですが、申請しなければ労災と認められることはないのですから、業務災害だと思うのでしたら労災申請しましょう。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格