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電車の遅延証明があれば遅刻しても賃金カットされない会社、あっても賃金カットされる会社がある。
この春に学校を卒業以来、久しぶりに友人Aと会って話をした。
友人Aも私Bも、今日は電車が遅延して2人とも会社に遅刻した。
友人Aは遅延証明書を駅で受け取れずに急いで出勤したが、ネットから遅延証明書を印刷して提出したら遅刻扱いにならずにすんだとのこと。
私Bが勤めている会社は、電車が遅れても遅刻は遅刻だからと言われて、遅れて働いていない時間の分は給料が減らされます。
電車の遅延を理由とする同じ遅刻なのに、
友人Aが勤めている会社は給料減らされず、
私Bが勤めている会社ではその時間分の給料を減らされてしまう。
いったい何故なのだろうか、…という話です。
民法536条1項 債務者の危険負担
最初に、電車が遅延して遅刻したというのはあなた(労働者)の責任ではありません。
先ず最初にそのことは知っておきましょう。
ですから電車の遅延による遅刻で、制裁としての賃金カット(罰金)とか懲戒罰を会社があなたにすることは許されません。
懲戒罰は許されませんが、遅刻して働いていない時間の賃金はカットして良いか、カットされても仕方ないかという問題です。
結論から言うと、就業規則・労働協約や労働慣行で電車遅延による遅刻で働いていない時間の賃金はカットしないという労働契約がない場合は、遅刻して働いていない時間の分の賃金が支払われないのは仕方ないということになります。
民法536条 1項と2項
「不況で仕事がないので1週間休めと会社から言われた。➡会社の都合で休業させられた場合は給料100%を全額請求できます。」の記事で
「使用者(会社)の責に帰すべき事由がある場合は、 給料全額の支払いを請求できる 民法536条2項」を紹介しました。
今回は同じ民法536条ですが、1項の話です。
労働契約は、労働者が労働力を使用者に提供し、使用者が労働者に賃金を支払う、双務契約です。
使用者(会社)・労働者(勤め人)のどちらにも故意・過失がない事情・理由によって、労働者が使用者に労働力を提供できなかった場合は、労働者は使用者に給料を請求できるかという問題です。
この場合は、使用者に労働力を提供する債務(義務)を負っている労働者は反対給付(給料)を受けとる権利はないと定めたのが、民法536条1項です。
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(債権者の危険負担)
第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2 不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
民法536条1項“債務者の危険負担”は強行規定ではありません。当事者の特約で排除できる任意規定です。
使用者(会社)・労働者(勤め人)のどちらにも故意・過失がない事情・理由によって、労働者が使用者に労働力を提供できなかった場合は、使用者に労働力を提供する債務(義務)を負っている労働者は反対給付(給料)を受けとる権利はないと定めたのが、民法536条1項です。
電車が遅延したことで遅刻した場合は、遅刻して働いていない時間の分の賃金を会社は勤め人に払わなくてよい、その分は賃金カットしてOKというのが民法536条1項でした。
それでは、なぜ、友人Aが務める会社では遅延証明を提出すれば遅刻扱いにならず、私Bが務める会社では遅延証明を出しても出さなくても遅刻としてその時間分の給料が減らされてしまうのでしょうか。
民法536条1項があるのに、どうして扱いが違うのでしょうか。
民法には、当事者の特約(契約)によって排除することが許されない強行規定と、当事者の特約がない場合に適用される任意規定があります。
任意規定の条文は、当事者が条文とは異なる内容の契約を締結している場合には契約内容(特約)が優先されて適用されます。
民法536条1項は任意規定ですので、特別の約束(特約)が契約内容として締結されているのであれば、民法536条1項は排除されます。
具体的には、就業規則・労働協約・労使慣行で、電車が遅延して遅刻した場合は遅刻扱いせず賃金カットしないという契約内容があれば、賃金カットをしてはいけないことになります。
労使慣行の問題は事実の問題と解釈の問題がありますので、一概には言えませんが、
就業規則や会社と労働組合が締結した文書である労働協約は見ることができます。
あなたが勤めている会社ではどうなっているか確認してみてはいかがでしょうか。
今日の1日1新:鼻からの胃カメラ
今日は人間ドックに行きました。
胃のレントゲンはバリウムを飲むときも飲んだあともつらいので、胃カメラにしてみました。
口からよりも鼻からの胃カメラの方が楽だと聞いたことがあるので、鼻からの胃カメラにしてもらいました。
結果としては、バリウムも胃カメラもつらいです。
綺麗な胃をしていると言われてホッとしました。

小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

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