兼業、副業。この言葉をよく聞くようになりました。
「就職したら別の会社で働いたらダメでしょう」という方。
「自分の時間で何をしようと会社から一切言われる筋合いはない」という方。
兼業、副業について、考えてみましょう。
「2つの仕事(兼業)をしています」をアピールする労働者
【原則】副業・兼業は自由
結論としては、副業・兼業が禁止される場合もありますが、就職した会社の就業時間以外で行なうのは労働者の自由です。
労働者には職業選択の自由が憲法で保障されています。
あなたの職業選択の自由を奪う権利は会社にはありません。
就職しているということは、会社と労働者であるあなたは労働契約を結んでいるということです。
ですから、就職しているあなたは就職先の会社との労働契約による労働時間内で別の会社の仕事をしたり副業をすることは認められません。
「就職したら、別の仕事をしてはいけないんじゃないの?」という方。
なぜ1つの会社に就職したら別の仕事をしてはいけないのでしょうか。
就職先の会社との労働契約による労働時間以外は、労働契約によってしばられることのないあなたの自由な時間です。
1人ひとりの個人の自由は憲法で保障された人権です。
個人の自由意志によって締結された契約である労働契約を守ることは(内容によりますが)労働者にとっても会社にとっても求められることです。
しかし、労働契約で定められた(法律に反しない内容での)労働時間以外の労働者の自由を侵害することは認められないのです。
労働時間以外の時間を労働者がどのように過ごすかは、労働者の自由ですから会社が介入できないのが原則です。
副業・兼業は、原則として労働者の自由です。
【例外】副業・兼業の禁止が認められる場合
副業・兼業をするかしないかは、原則として労働者の自由です。
しかし、どんな場合でも認められるわけではなく、例外として副業・兼業が禁止される場合もあります。
たとえば、あなたが朝8時から夕方5時まで1日7時間で週5日間働く契約をしているとします。
仕事を終えてから、毎日夕方6時から7時まで1時間副業・兼業をする。
無理がない現実的にありうる話です。
ところが、毎日夕方6時から午前0時まで6時間副業・兼業をして、家に夜中の1時過ぎに帰り、寝るのは2時過ぎで朝6時に起きて出勤し睡眠時間は4時間、仕事中は居眠りや疲れによるミスが頻発。
債務の本旨にもとづいた労働力の提供ができていないのであれば、労働者の債務不履行です。
労働契約法3条(労働契約の原則)
(1項)労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2項 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3項 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
副業・兼業は原則として労働者の自由です。
しかし、例外として認められない場合もあるのだということは、「自分の時間で何をしようと会社から一切言われる筋合いはない」という方も納得できるのではないでしょうか。
副業・兼業の禁止が認められる例外について、厚生労働省は4つとしています。
(2)企業秘密が漏えいする場合
(3)競業により自社の利益が害される場合
(4)自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」2022年7月改定(厚生労働省)
就業規則に「禁止」と書かれているから、兼業・副業が認められないわけではない
厚生労働省は副業・兼業の促進するために、留意点に触れながらも副業・兼業のメリットを強調しています。
厚生労働省が作成している「モデル就業規則」でも、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」とされています。
(副業・兼業)
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該
業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は 制限することができる。
1 労務提供上の支障がある場合
2 企業秘密が漏洩する場合
3 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
4 競業により、企業の利益を害する場合
「モデル就業規則」
2022年11月版 厚生労働省労働基準局監督課
しかし、副業・兼業を認めるかどうか、就業規則で副業・兼業を認めるかどうかは会社によります。
もしも、厚生労働省のモデル就業規則とはことなり、あなたが就職した会社の就業規則で副業・兼業禁止と明記されていたら、どうなるのでしょうか。
副業・兼業禁止と明記された就業規則に反して、副業・兼業をした場合には、労働者は就業規則違反で懲戒処分を受けるのは当然ということになるのでしょうか。
就業規則に副業・兼業禁止と書かれているからといって、副業・兼業をしたことだけで懲戒処分が認められるわけではありません。
職場秩序に影響せず、そして使用者(会社)への労働力の提供に格別の支障がない程度・あり方での兼業は、就業規則で禁止されていても懲戒処分は認められません。
「副業・兼業に関する裁判例においては、就業規則において労働者 が副業・兼業を行う際に許可等の手続を求め、これへの違反を懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様の ものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていない。
このため、労働者の副業・兼業が形式的に就業規則の規定に抵触する場合であっても、懲戒処分を行うか否かについては、職場秩序に影響が及んだか 否か等の実質的な要素を考慮した上で、あくまでも慎重に判断すること」
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」2022年7月改定(厚生労働省)
副業・兼業をしたことで懲戒処分をうけた労働者の方で、処分に納得がいかないという方は、労働局や労働委員会による「あっせん」を求める方法もあります。
労働局(厚生労働省)「あっせん」についての参考記事
2021年度【労働局あっせん申請3,760件】労働者からの申請が98%
不当な扱いをした会社と闘わなくていいのか?内向型労働者は「あっせん」による話し合いの解決も選択肢に!
これから副業・兼業をしたいと思っている労働者の方は、のちのちのトラブル防止のためにも会社に伝えて了解を得ておきましょう。
【編集後記】
初めて買ったApple Watch(Series8 45mm スターライトアルミニウム)。
10月20日(2022/10/20)に届いて1月半近く使ってみて、便利なところ好きなところがたくさんありますが、その1つに朝起きるのが楽になったことがあります。
今まではiPhoneのアラームを目覚ましにしていたのですが、寝ているところに音(音楽)が鳴りだしてビックリして目が覚めていました。
Apple Watchのアラームは手首をそっと振動させるだけ、音もなく静かに起こしてくれます。
自然に目がさめる感じで快適です。毎日のことなので、こんな小さなことでも改善されると嬉しいです。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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