会社に解雇された。不当解雇で無効を争いたいという方から社会保険について相談がくることがあります。
退職・解雇で会社を離れると社会保険の被保険者としての資格を失います。
解雇無効を争おうしているのに、新たな社会保険の手続きをすると解雇自体を認めたことになるのではないか?という相談です。
Contents
【雇用保険】解雇を争う場合は?
失業手当は仮給付(仮受給)の手続きをする
解雇された労働者が、解雇を不当として争う場合に失業手当(雇用保険の基本手当)を受けたい場合には、仮給付(仮受給)の手続きをしましょう。
失業手当の仮給付(仮受給)を受けるためには、労働者が会社に対して解雇無効だと主張しているだけでは認められません。
失業手当の仮給付(仮受給)の手続きをするためには
公的機関に対して以下の対応を求めている場合に、失業手当の仮給付(仮受給)の手続きをすることができます。
誰が | 何を |
---|---|
労働者が | 労働委員会に申立てている |
裁判所に提訴(仮処分の申請を含む)している | |
労働基準監督機関に申告している | |
本人又は事業主が | 事業主の行った解雇あるいはこれを正当又は不当とする労働委員会の命令に不服を申立てていて、まだ命令が行われていない |
裁判所の判決に不服で提訴(仮処分の申請を含む)していて、判決が行われていない | |
労働基準監督機関の判定に不服で、申告(上訴の場合を含む。)を行っていて、判定が行われていない |
雇用保険に関する業務取扱要領(令和2年4月1日以降)によると、失業手当の仮給付(仮受給)を受けたいことをハローワークに申し出ると、離職証明書及び離職票-2の欄外に以下の内容を記入して、署名押印するか自筆署名をすることを求められます。
「労働委員会、裁判所又は労働基準監督機関に申立て、提訴(仮処分の申請を含む。)又は申告中であるが、基本手当の支給を受けたいので、資格喪失の確認を請求する。」
同要領によると、合わせて以下の書類の提出もハローワークから求められます。
解雇の効力等について争いがある場合の資格喪失の確認
解雇の効力等について争いがある場合には、次のイ及びロの条件を満たすときに限って資格喪失の確認を行う。
なお、この取扱いは、事業主から離職証明書を添えて資格喪失届の提出があった場合又は被保険者から確認請求があった場合にのみ行うこととし、職権による資格喪失の確認は行わない。
また、事業主が資格喪失届に離職証明書を添えないで提出した場合は、被保険者が離職証明書を提出するまでは、資格喪失の確認は保留する。
また、労働基準法第 3 条違反、第 19 条違反又は第 20 条違反については、労働基準監督署において、解雇の効力自体を争うものではないが、当該申告がなされている場合には、公共職業安定所における喪失確認の事実判定が困難であること、その一方で、労働者保護の観点が大きいことを考慮し、喪失確認を行う公共職業安定所長の判断において、条件付給付の取扱いを行うものである。
イ 解雇された被保険者が、解雇を不当とする主張を行う場合において、離職証明書及び離職票-2の欄外に「労働委員会、裁判所又は労働基準監督機関に申立て、提訴(仮処分の申請を含む。)又は申告中であるが、基本手当の支給を受けたいので、資格喪失の確認を請求する。」旨を記載し、署名押印又は自筆署名をすること。
ロ 本人又は事業主が、事業主の行った解雇あるいはこれを正当又は不当とする労働委員会、裁判所、労働基準監督機関の命令、判決又は判定に不服で、これら裁決機関に申立て、提訴(仮処分の申請を含む。)又は申告(上訴の場合を含む。)を行っており、いまだ当該命令、判決又は判定が行われていないこと。
雇用保険に関する業務取扱要領(令和2年4月1日以降) 厚生労働省
【健康保険】【厚生年金保険】解雇を争う場合は?
解雇行為が労働法規又は労働協約に違反することが明かな場合を除いて、
解雇にともなって会社が被保険者資格喪失届を提出した場合は、労働者は健康保険・厚生年金保険ともに資格を失うことになっています。
健康保険の保険証(被保険者証)を返さなくても資格は失っていますので、保険証を使うことはできません。
雇用保険のように仮に認める運用はありませんので、ひとまず健康保険と国民年金の手続きをする必要があります。
あとから解雇が無効とされた場合には、過去にさかのぼって資格は失われなかったこととされます。
解雇されて会社が被保険者資格喪失届を提出したときは、健康保険は、国民健康保険の被保険者となるか健康保険の任意継続被保険者になる、あるいは家族の健康保険の被扶養者になる手続きをします。
被扶養者になれれば保険料を払う必要がありませんので一番良い選択です。
被扶養者になれない場合は、国民健康保険の被保険者か健康保険の任意継続被保険者を選びます。
払うことになる保険料を調べて金額が安い方を選びましょう。
年金も被扶養配偶者となれる場合は第3号被保険者となる手続きをしましょう。保険料を払う必要がありません。
第3号被保険者になれない方は国民年金(第1号被保険となる)手続きをしましょう。
解雇行為が労働法規又は労働協約に違反することが明かな場合は、資格確認請求をするなど対応します。
今回のケースとは異なりますが、資格確認請求についてこちらの記事で紹介しました。
会社が厚生年金・健康保険の届け出(適用届)をしない場合は、自分で被保険者の資格確認の請求ができます。
解雇の効力につき係争中の場合における健康保険等の取扱について
(昭和二五年一〇月九日)
(保発第六八号)
(各都道府県知事あて厚生省保険局長通知)最近企業合理化を行う事業や新聞報道関係等において解雇が行われているが、これに関して労資双方の意見が対立し被保険者資格の喪失について疑義を生じた場合においては、左記によつて取り扱うこととなつたので通知する。
記
1 解雇行為が労働法規又は労働協約に違反することが明かな場合を除いて、事業主より健康保険法施行規則第10条第2項の規定による被保険者資格喪失届の提出があつたときは、当該事件につき労働委員会に対して、不当労働行為に関する申立(労働組合法第27条)、斡旋(労働関係調整法第10条乃至第16条)、調停(労働関係調整法第17条乃至第28条)、若しくは仲裁(労働関係調整法第29条乃至第35条)の手続がなされ、又は裁判所に対する訴の提起若しくは仮処分の申請中であつても、一応資格を喪失したものとしてこれを受理し、被保険者証の回収(回収不能の場合は被保険者証無効の公示をなすこと。)等所定の手続をなすこと。
右労働法規又は協約違反の有無について、各保険者が一方的にこれを認定することは困難且つ不適当であるから、当該保険者においては、労働関係主管当局の意見を聞く等により、事件結着の見透しを慎重検討の上処理すること。
なお、本年七月十八日付マッカーサー書簡の趣旨に基き、新聞等報道関係において行われた解雇は、労働法規又は協約に違反しないものとしてこれを取り扱うこと。
なお、解雇された被保険者で、被保険者証を事業主に返還しないものに対しては、不当使用の際には詐欺罪として処罰される旨の警告をなさしめること。
2 右の場合において労働委員会又は裁判所が解雇無効の判定をなし、且つ、その効力が発生したときは、当該判定に従い遡及して資格喪失の処理を取り消し、被保険者証を事業主に返付すること。
3 右の場合において解雇無効の効力が発生するまでの間、資格喪失の取扱のため自費で診療を受けていた者に対しては、療養の給付をなすことが困難であつたものとして、その診療に要した費用は療養費として支給し、その他現金給付についても遡つて支給すると共に保険料もこれを徴収すること。
4 第一項の申立又は仮処分の申請に対する暫定的決定が本裁判において無効となり、解雇が遡つて成立した場合には、すでになされた保険給付は被保険者から返還されることとし、又徴収済保険料は事業主からの還付請求に基いて還付手続をなすこと。
5 厚生年金保険における取扱についても、右に準じて適切な措置を取ること。
【労災保険】給付は解雇の争いで問題とならない
退職前から労災保険給付を受けている方は、退職後も給付を受け続けることができます。
定年退職した場合であっても、退職後も給付を受け続けられます。
こちらの記事で紹介しました。
仕事でケガ・病気。定年退職後も労災保険から給料の代わりを受けられる(休業補償給付)
退職前に労災申請していなかった方はどうでしょうか?
退職後であっても労災申請して保険給付を受けられます。
労災保険の給付を受ける権利は、退職とは関係ないからです。
労災保険法第12条の5
(1項)
保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。
社会保険のなかで労災保険には被保険者というものがありません。
農林水産の事業で常時使用する労働者が5人未満の個人事業などの場合を除くと、
労働者を1人でも使用するすべての事業で労災保険が適用されます。
そして雇用形態に関係なく労働者は労災保険給付を受けられるのです。
参考記事
月に1日しか出勤しない人は労災保険から給付を受けられるか?
【編集後記】
今朝は久しぶりに遠くまでウォーキングして帰り道にジョギング。
平坦な道を長く歩いていると脚が棒のようになってヒザが痛くなりました。
ジョギングに切り替えるとヒザが楽になりました。
坂道を登ったり降りたりする里山トレッキングではヒザが痛くなることはないので、平坦な道を歩き続けるのは負荷がかかる体の場所が同じだからだと思います。
コロナが落ち着いたら起伏のある里山を歩いてみたいです(^^)。
写真は2020/05/02水上町
週末の1日1新 寿司打
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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