【合意ない労働条件の切り下げは無効】納得できなければ労働局のあっせんを利用する

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あなたが合意していないのに、給料など労働条件を一方的に切下げられてしまった。
「仕方がない」とあきらめるしかないのでしょうか?

Q.労働者の合意なく、使用者(会社)が一方的に労働条件を切下げることは許されるのか?

Q.会社から給料を減らすと言われ、反論することにためらっているうちに実際に給料を減らされてしまった。あきらめるしかないのだろうか?

A.合意ない労働条件の切下げは原則として無効です。労働者であるあなたが合意していなかったのでしたら、減らされてしまった分の給料は受けとる権利があります。

合意ない労働条件の切り下げは無効

契約は当事者の合意によって成立しますが、契約内容の変更も同様です。

いったん成立した契約の内容を変更するには、当事者の両方の意思が合致すること、当事者の合意が必要です。

たとえば、ある商品をお店であなたが1万円で買うという売買契約を締結したとします。
あなたが「1万円でこの商品を買いたい」と言い、お店が「いいですよ、1万円で売ります」と言って、売買契約が成立しました。

売買契約成立後に商品を受け取るときに「やっぱり5千円しか払いません」と言っても、お店の人が「それじゃあ5千円でいいですよ」と言ってくれない限り、あなたは1万円払わなければいけないですよね。

例を出すまでもない、当たり前の話ではあります。

労働契約も契約の1つですから、成立した労働契約の内容である、労働条件を変更するためには、使用者(会社)と労働者の両方の意思が合致することが必要です。

使用者と労働者の合意がなければ、労働条件の変更は行なえないのが原則です。

労働者の合意なく、使用者が一方的に労働条件を切り下げることはできない。これが大原則です。

労働契約法8条(労働契約の内容の変更)

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

就業規則の内容が合理的な労働条件が定められていて、就業規則が労働者の周知されていた場合は、就業規則に定められた労働条件が労働契約の内容になります。

個別の労働契約の内容が就業規則で定められた労働条件を上回る場合は、個別の労働契約の内容が優先されます。

参考記事

労働契約と就業規則はどちらが優先されるのか?

労働契約法7条

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

しかし、労働者の合意なく、就業規則を変更することで労働条件を切り下げることはできません。

労働契約法9条(就業規則による労働契約の内容の変更)

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

就業規則は使用者が一方的に作成・変更できるものですから、就業規則を変更することで労働条件を切り下げることは認められないのが原則です。

就業規則の変更により、労働条件を切下げること(労働条件の不利益変更)は、厳しく制限されています。

労働契約法10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

使用者と労働者の合意がなければ、労働条件の変更は行なえないのが原則です。

逆に言うと、労働者と使用者は、合意により労働契約の内容である労働条件を変更することができる、ということになります。

労働契約法8条(労働契約の内容の変更)

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

しかしそれでも、使用者と労働者が合意していたとしても、労働基準法でさだめる基準に満たない労働契約は無効です。

たとえ使用者と労働者の合意があった場合でも、労働基準法に満たない労働条件についての合意は無効となり、労働基準法が定める基準が労働契約の内容となります。

労働基準法13条(この法律違反の契約)

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

合意なき労働条件の一方的な切下げに納得できなければ労働局あっせんで解決をめざすことができる

給料などあなたの労働条件が会社から一方的に切下げられてしまった。

あなたが納得できていないのでしたら、泣き寝入りしないようにしましょう。

公的機関である労働局(厚生労働省)があなたと会社の間に入って話し合いによる解決、「あっせん」による労働問題の解決をめざすという方法もあります。

とくに内向型の労働者の方は、争って自分の意見を相手に主張することが苦手な方が多いでしょうから、内向型労働者の方には労働局のあっせんはおすすめです。

参考記事

不当な扱いをした会社と闘わなくていいのか?内向型労働者は「あっせん」による話し合いの解決も選択肢に!

紛争調整委員会によるあっせん事例(さいたま労働局)

使用者による一方的な労働条件の切下げ、労働者の合意がない労働条件の切下げについての労働局でのあっせん事例を見てみましょう。

労働条件の引下げに関する紛争
紛争調整委員会によるあっせん事例(さいたま労働局)

事案の概要労働者Aさんは、X社において管理職として勤務していた。Aさんは、病気療養のため約1か月間休業して勤務に復帰したところ、身分を管理職から一般職扱いとして賃金を25%引き下げると通告され、当月の末日をもって退職した。

Aさんは、25%の賃金引下げに納得できないとして、引下げ分(通告から退職までの1か月分)の支払を求めてあっせん申請した。

申請人(労働者)の主張

病気療養から復帰してすぐに賃金引下げを通告された。賃金引下げの理由については、欠勤が多いといったことを言われたが、納得できない。

被申請人(会社)の主張

Aさんの賃金は管理職であることを考慮して決定したものであるが、Aさんは、管理職の立場にありながら、欠勤が多く、同僚社員や取引先とのコミュニケーションがとれなかった。このため、Aさんを管理職から外して一般社員扱いとし、併せて賃金を25%減額したものである。賃金減額の話をしたとき、Aさんからは何の反論もなかった。

あっせんの結果

あっせん委員は、賃金を含む労働条件が労使間の合意によって変更することができることをX社に説明して歩み寄りによる和解を求めた。これを受けて、X社は、賃金の引下げをAさんに伝えた際Aさんから反論はなかったものの明確な同意も得ていなかった点を踏まえて引下げ分全額を支払うことに同意し、和解が成立した。

【編集後記】

昨日の昼食は新宿事務所のすぐ近くのタカマル鮮魚店4号店にて。
海鮮サラダとカレイ煮付け定食を食べました。
昼食の時間帯をはずせば、昼間はわりと空いていることも。出入口が開け放しなので換気が安心かなと。
魚料理の種類が多いのと定食も充実しているので、ときどき利用しています。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格