日本郵便で働く非正規労働者が正社員との待遇格差を不当として集団提訴するという記事がありました。
目を引いたのは「正社員の待遇を下げても格差是正にはならない」という部分でした。
そのとおり!正社員の待遇を下げても格差是正にはならない。
そして、その反対に非正規労働者の待遇を向上した結果としてならば正社員の待遇が下がるのは仕方がないと私は考えています。
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日本郵便で働く非正規労働者が正社員との待遇格差を不当として集団提訴する
郵政産業労働者ユニオン(郵政ユニオン)は2月14日、日本郵便の有期契約社員が、正社員との待遇格差を不当として、支給されていない手当相当分などの支払いを求めて、全国7カ所の地裁に集団提訴することを明らかにした。
提訴するのは郵便局などで有期契約社員として働いている154人。同日、6地裁に提訴し、18日にも長崎地裁で提訴する。同じような仕事をしている正社員には支給される手当が、非正規社員に支給されないのは「不合理な格差」であり、労働契約法20条に違反するとして、総額約2億3230万円の損害賠償を求める。
原告代理人の棗一郎弁護士は、「労契法20条違反の裁判は数多くあるが、これだけの原告が集まった裁判はそうないのではないか」と話し、「同一労働同一賃金」にもとづく格差是正を訴えた。
日本郵便で新たな「同一労働同一賃金」訴訟 非正規社員154人「格差是正して」 弁護士ドットコムニュース
労働契約法20条
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
「正社員の待遇を下げても格差是正にはならない」
埼玉の郵便局で働く男性は、「日本郵便は正社員の待遇を下げて格差を是正しようとしているが、そんなことをしても非正規社員のかかえる問題の解決にはならない。今回の裁判に勝って、本当の格差是正につなげたい」と話した。
日本郵便で新たな「同一労働同一賃金」訴訟 非正規社員154人「格差是正して」 弁護士ドットコムニュース
以前、非正規労働者の労働組合の役員の方とお話したときに、その役員の方が“均等待遇”を強く主張されていました。
しかし、主張の中身としては、正規労働者の労働条件を引き下げるべきだというものでした。
正規労働者の労働条件を引き下げたからといって、あなたの労働条件が向上するわけではないではないか?と私は質問しました。
大切なのは正規労働者と非正規労働者との格差是正であり“均等待遇”なのであり、労働条件の向上ではないのだと答えがかえってきて大変驚いたことをよく覚えています。
日本国憲法28条で勤労者(労働者)の団結権及び団体行動権が保障されているのは、労働組合法に定められているように、労働者の地位向上、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることが目的なのだから、労働条件が向上しなくても格差が縮まるのならば他者の労働条件を引き下げるだけでも良いという主張は間違っていることを私は伝えました。
“均等待遇”の根拠は日本国憲法の25条や28条ではなく14条だから、労働条件の向上は関係ないのだと非正規労働者の労働組合の役員の方は熱弁されていました。
日本国憲法28条
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
労働組合法2条
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。
(以下略)
日本国憲法14条(1項)
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
非正規労働者の待遇を向上した結果としてならば正社員の待遇が下がるのは仕方がない
正規労働者と非正規労働者の“均等待遇”の根拠を日本国憲法14条に求めることに異議があるわけではありません。
労働組合の目的は労働条件の改善であり、不当に低められている(非正規)労働者の労働条件を向上させることです。
労働条件が不当に低められている原因が不均等な待遇であるのだから、日本国憲法14条の平等原則を根拠に労働条件を高めていこうというのなら当然理解できます。
同一価値かどうかの問題は置いておいたとして、時間あたりの賃金や手当・休暇などの制度をを正規労働者と同じ条件に引き上げればいいのです。
会社側は日本郵便と同じように均等待遇を実現するために正規労働者の労働条件を引き下げるという主張をしてくるでしょう。
しかし、正規労働者の労働条件が引き下げられて均等待遇に少し近づくでしょうが、正規労働者の労働条件が引き下げられた分がそのまま非正規労働者の労働条件の向上に充てられることはないでしょう。
会社側は正規労働者に対してだろうと非正規労働者に対してであろうと、総人件費の削減をしたいのが本音だからです。
だとすればどうしたらいいでしょう?
まずは、非正規労働者の労働条件を向上させることです。
時間あたりの賃金や手当・休暇などの制度をを正規労働者と同じ条件に引き上げます。
結果としてどうなるでしょうか。
正規労働者の労働条件は非正規労働者の労働条件を低いままにしておくことで成立しているのですから、非正規労働者の労働条件を正規労働者と同じ水準まで引き上げれば経営は成り立たなくなります。
もちろん総人件費は会社を経営していく上で支出するすべてではありません。
単なる費用ではなく将来への投資と位置づける可能性もありますから、総人件費枠を削減させる前提に立つ必要もないのですが。
非正規労働者の労働条件を向上した結果として、総人件費が本当に経営を圧迫した場合には労働条件の切り下げは合理的な理由がありますから会社は必要な手続きを経て労働条件の切り下げを行なうことが認められます。
特定の労働者にしわ寄せが行くことは認められませんが、労働条件の切り下げができるのです。
それで、非正規労働者の労働条件向上のせいでオレたちの労働条件が悪くなるのは認めないと正規労働者の労働組合が主張することはさすがに許されないです。“同じ労働者”なのですから。自分たちだけ良ければという主張では「正当性」が保てませんから。
「正社員の待遇を下げても格差是正にはならない」のは本当です。
正規労働者も非正規労働者もどちらの労働条件もお互いに低めあってしまうだけです。
会社側が使う都合のよい理屈にだまされてはいけません。
事実は反対です。
まずは、非正規労働者の労働条件を正規労働者と同じ水準まで引き上げさせましょう。
その結果、正規労働者の労働条件は引き下げざるを得ないでしょう。経営原資は無限ではありませんから仕方ありません。
物事が2つの問題があった場合、どちらからアプローチしても結果は同じという問題もありますが、逆からアプローチしては目的には至らずに反対の結果となるという問題もあります。
逆からアプローチしては目的とする結果に至らないという問題には、どっちだっていいじゃないか?の声に対して論理で立ち向かいましょう。
【編集後記】
今朝の新宿西口。
新宿駅西口を出ると高層ビルときれいな青空が広がっていて、とても爽やかな朝でした。
今日の1日1新 たんばや製菓の小倉どら焼。
あんこはこしあんではなくつぶあんが好きです。名前が小倉だからでしょうか。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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