診断名が「熱中症」でなくても熱中症の労災認定される

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すっかり秋になりましたが、今年の夏は長かったですね。
仕事で熱中症になったという方もいるでしょう。
労災申請して、労災保険から給付を受けていますか?

診断名が「熱中症」と書かれていなければ、熱中症の労災と認められないわけではありません。
仕事で熱中症になって診療を受けたり、診療を受けて医師の判断で仕事を休んだ方は、今からでも労災申請しましょう。

熱中症は業務上の病気のよる労災ワースト3

業務上疾病のワースト3は多い順から、災害性腰痛、新型コロナウイルス感染、熱中症です。
この3つの病気だけで、2020年に発生した休業4日以上の業務上疾病の83.7%を占めています。

2020年に発生した休業4日以上の業務上疾病
<具体的な病気>ワースト3
件数
災害性腰痛 5,582
新型コロナウイルスり患によるもの 6,041
熱中症 959

業務上の病気による休業4日以上の労災

具体的な病気として熱中症は3番目に多いです。

参考記事
2020年【病気による業務災害の83.7%】新型コロナ・災害性腰痛・熱中症の3つで占める

業務上でなった熱中症は、業務上災害として労災保険からの給付を受けられます。

労災申請して業務上災害として労災であると認められると、病院で受けた診察・治療・薬代は無料になります。

もしも、仕事で熱中症になったのに労災になるとは知らずに労災申請していなかった方は、時効は2年ですので申請しましょう。

参考記事
労災保険 請求の時効。労災保険の給付を求める請求ができる期限。

労災保険からの給付を受けられることを知らずに、健康保険を使って3割の自己負担を払った場合、健康保険が支払った7割分をあなたが返してから労災保険から10割分を支給してもらいます。

あなたが自己負担分として病院や薬局に支払った医療費や薬代の3割分も労災保険から支給されますから、大変助かります。

参考記事
仕事でケガをして健康保険から給付受けていたら労災保険に切り替える

しかし、あとから医療費の全額分が労災保険から支給されるといっても、医療費の7割分は大きな負担です。

それを一時的であっても健康保険に返すのは難しいという方もいるでしょう。

そんなときには、あなたの代わりに労災保険から健康保険へ医療費の7割分を払ってもらい、あなたが病院に支払った医療費の3割分を労災保険から受けとることもできます。

参考記事
労災認定された❗️健康保険自己負担分除く医療費7割を先に返さないと労災保険給付受けられない⁉️

診断名が「熱中症」でなく、熱中症の労災が労基署長から不支給決定された事例

あなたが仕事で熱中症になって、病院で診療を受けたのでしたら診療費も薬代も無料です。

参考記事
仕事でケガをして病院に行く。労災保険で治療を受けるにはどうしたらいいか。

医師の指示で療養のために仕事を休んだ期間は、4日目から給料の約8割が労災保険から支給されます。

3日目までは会社から給料の約6割以上の休業補償給付を受けとります。

参考記事
労災保険【休業補償給付】会社から給料出ていても受け取れるか?

しかし、あなたが熱中症で病院で診療を受けたものの、診断名が「熱中症」という名称ではなかった場合はどうなるのでしょうか?

「熱中症」という名前ではないので、業務上の病気による労災として認められないのでしょうか?

大型トレーラーの運転手の方が熱中症になり病院へ救急搬送され診療を受けました。

しかし「熱中症」と診断されていなかったこと、本人の持病と関連している可能性が高いとして、労働災害とは認めないという決定が労働基準監督署長から出された事案があります。

労災保険からの給付をしないという決定をした労働基準監督署長の意見
1 請求人は大型トレーラーで△△市へ配送するため運転走行中に悪気、めまい、嘔気を発症したものである。
2 本件疾病発症時、気温は 32.8°C、湿度は 53%であり、運転していた大型トレーラーのエアコンが故障しており、窓を開けて走行していたため、暑熱な環境下で業務に従 事していたことは認められるが、医療機関においての各種の検査結果は「耳性めまい症」等であり、「熱中症」の診断はされていない。
3 請求人には右難聴の既往症があり、主治医は右難聴と本件疾病の関連性を示唆して おり、転医先の医療機関では傷病名として、「感音難聴右」が追加された。また治療内容も、めまい症に適応する内服薬投与等の治療であり、熱中症に対する治療とは考え難い。
4 以上のことから、請求人が暑熱な環境下で業務に従事した事実は認められるが、請求人に発症した疾病は業務に起因するものではなく、既往症である「内耳障害に伴うめまい」であった可能性が高いことから、業務上の疾病とは認められず不支給とした。

仕事で熱中症になって病院で診療を受けたのだから労災であると労災申請をした大型トレーラーの運転手の方は、労災ではないという労働基準監督署長の決定に納得せずに不服申立てをしました。

不支給決定に不服申立、審査請求して労災保険審査官が不支給決定を取り消した

労災保険給付の決定について納得できない場合は、労災申請をした労働者の方は不服申立てをすることができます。

労災保険給付の不服申立ては、まず最初に労災保険審査官へ審査請求を行ないます。

審査請求への決定に不服があるときには、さらに労働保険審査会へ再審査請求を行なうことができます。

【労災保険】不支給の決定。納得できないときは不服申立てる

診断名が「熱中症」でなくても熱中症の労災認定される

仕事で熱中症になって病院で診療を受けた大型トレーラーの運転手の方は、労災ではないという労働基準監督署長の決定に納得せずに審査請求をしました。

審査請求を受けた労災保険審査官は、仕事により発症した「熱中症」であると認め、労働基準監督署長が決定した労災保険からの保険給付の不支給決定を取り消しました。

労働者災害補償保険審査官決定
1 発症日である平成○年○月○日は、午前 11 時から気温 30°Cを超え、湿度も高く、大型トレーラーのエアコンが故障していたことから、暑熱な就労環境であったことは監督署長も認めている。また、請求人の既往症である右難聴は、生まれつきのもので あるため、特に治療等は実施しておらず、本件疾病の発症当日、右耳に係る傷病の発症は認められない。
2 主治医は「耳性めまい症疑い」と診断しているが、業務との関連性については回答 しておらず、除外的に診断した旨意見している。また、労災協力医は熱暑な気象条件 の中、エアコンが故障した車内で発症したことから、軽度熱中症に矛盾せず、熱中症によって内耳など平衡機能に関連する器官の血行循環動態に変調を来して、内耳性めまいが生じた可能性を考えると意見している。
3 以上のことから、請求人に発症した疾病は、夏季にエアコンが故障した車を運転したことにより発症した「熱中症」と認められ、暑熱な環境下で業務中に発症していることから、業務遂行性及び業務起因性が認められる。
決定 以上から本件疾病は業務上の疾病として取り扱われるべきであり、監督署長が請求人に対してなした療養補償給付を支給しない旨の処分は妥当ではなく、取り消されるべきである。

【編集後記】

診断名が「熱中症」ではないから熱中症の労災として認められないわけではありませんので、知っておいていただければと思います。

そして、労災申請して労基署長から不支給の決定がでたときでも、納得できなければあきらめずに不服申立てができることも知っておいていただきたいと思います。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格