新型コロナウイルスに関連して会社から労働条件を不利益に変更を求められているがどうしたらいいのか?
労働条件の不利益変更の求めに応じるも応じないのも、原則として労働者であるあなたの自由です。
労働者と使用者の合意がなければ労働条件は変更できないのが原則だからです。(労働契約法8条)
厚生労働省が作成した「新型コロナウイルスに関するQ&A」でも明記してあります。
Contents
会社が労働条件の不利益変更を求めてきても「応ずるかどうかは原則として労働者の自由」(厚生労働省)
問10 今回の新型コロナウイルスに関連して、会社から労働条件(労働契約の内容)を不利益に変更されそうになった場合は、どうしたらいいでしょうか。
今回の新型コロナウイルスを理由として、会社が労働条件の変更を求めてきた場合であっても、それに応ずるかどうかは原則として労働者の自由であり、労働関係法令において、以下のような決まりがあります。
① 労働契約の内容である労働条件を変更する場合には、原則として労働者との合意が必要であること(労働契約法第3条及び第8条)。
② 就業規則の見直しにより労働条件を変更する場合にも、労働者の合意を得ない限り、一方的に就業規則を変更して、労働者の不利益に労働条件を変更することはできないこと(労働契約法第9条)。
③ ただし、次の要件を満たせば、就業規則の変更によって労働条件(労働契約において、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分を除く)を変更することができること(労働契約法第10条)。
(1)その変更が、以下の事情などに照らして合理的であること。
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
(2)労働者に変更後の就業規則を周知させること。
④ 就業規則の作成や変更に当たっては、事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないこと(労働基準法第90条)。
「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」問10<労働条件の変更について>令和2年10月15日時点版(厚生労働省)
【労働条件の変更】(大原則)労働者と会社が合意しなければ労働条件を変更できない
契約は合意によって成立します。労働契約も契約の1つです。
労働契約は労働者と使用者(会社)の合意によって成立する契約です。
労働契約法
(目的)1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
(定義)2条(1項) この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2項 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
契約当事者の合意によって契約が成立します。
成立した契約の内容は契約当事者が合意しなければ変更できません。
たとえば、あなたがApple Watchをある店で注文して5万円で売買契約が成立したとします。
現品が届いたと連絡があって店に行きました。
5万円払うのが嫌になって3万円しか払わないと言っても、(売買契約が成立しているなら)あなたは5万円を払わなくてはいけません。
「3万円でいいよ!」と店の人が合意しない限り、5万円で成立した売買契約を相手方である店の合意なくあなたが一方的に3万円に変更できません。
当たり前のことを言うな!ですよね。それが契約です。
そして労働契約は・・・というと、もちろん労働契約も契約です。
労働契約の契約当事者は労働者と使用者(会社)です。
会社が労働契約の内容(労働条件)を変更したいと思っても、労働者が合意しなければ変更できないのは他の契約と同じです。
労働者と使用者が合意しなければ労働条件を変更することはできないのが大原則です。
労働契約法(労働契約の内容の変更)
8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」令和2年10月15日時点版「問10」で「今回の新型コロナウイルスに関連して、会社から労働条件(労働契約の内容)を不利益に変更されそうになった場合は、どうしたらいいでしょうか。」に対して「今回の新型コロナウイルスを理由として、会社が労働条件の変更を求めてきた場合であっても、それに応ずるかどうかは原則として労働者の自由」である。
厚生労働省もハッキリと回答しています。
【労働条件の変更】労働者と会社の合意がなく労働条件を変更できるのは特別な例外だけ
成立した契約は契約当事者の合意がなければ変更はできない。当たり前のことであり、契約の大原則です。
労働契約も契約の1つですから、契約当事者である労働者・使用者(会社)のどちらか一方が相手方の合意がないのに契約の内容を変更できないのは当たり前の話です。
しかし、大原則である合意原則にも例外があります。
原則に対する例外を考えるときには、<必要性>と<許容性>の2つから考えるとわかりやすいです。
- Q.原則を変更しなければならないほどの<必要性>があるのか?
- Q.原則を変更する必要性があったとしても、それを受け入れられる<許容性>があるのか?
そもそも、必要性が前提です。
原則を変更しなければならないほどの必要性がなければ、変更を認めることはできないのです。
契約とは法的な約束のことです。
法的な約束とは国家権力による強制力をともなうということです。
契約とは、国家権力による強制力をともなう約束。
成立した契約は、あとになって「ヤッパリやめた」を許さない約束なのです。
裁判所による命令などで強制的に約束を守らせられる約束が契約です。
その契約の内容を契約当事者の合意がないのに変更できる場合というのは、それほどまでの必要性がある場合だけなのは当然です。
それでは、契約内容を変更する必要性が確かにあるのだとします。
契約内容を変更する必要性があったら、それだけで変更は認められるでしょうか?
そうではないのです。
契約の相手方には契約の内容を変更しなければならないほどの必要性が確かにある。
しかし、そもそも合意によって成立した契約を相手方の合意もなしに変更するのです。
契約内容の変更が受け入れられる・認められるものだから仕方ない、という<許容性>が不可欠です。
労働契約の内容である労働条件を、労働者の合意なく引き下げる(不利益変更する)ことができないのが大原則です。
新型コロナウイルスの影響で売上が落ち込んで経営不振だという理由で、労働者の合意なく労働条件を不利益変更できません。
もしも会社が労働条件の不利益変更を求めてきても応じるかどうかは原則として労働者の自由。
厚生労働省も新型コロナウイルスに関するQ&Aで明確に回答しています。
労働者の合意がないのに、例外的に会社が労働条件を不利益変更できるための<必要性>と<許容性>は労働契約法10条で定められています。
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更するための <必要性>と<許容性> |
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---|---|
必要性 |
労働条件の変更の必要性
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許容性 |
労働者の受ける不利益の程度 労働条件の変更の必要性 変更後の就業規則の内容の相当性 労働組合等との交渉の状況 その他の就業規則の変更に係る事情に照らして 合理的なものである。
変更後の就業規則を労働者に周知
|
労働契約法(就業規則による労働契約の内容の変更)
9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
労働者の合意がなく、使用者(会社)が一方的に労働条件を切り下げるという場合。
そもそも労働条件を切り下げる(不利益変更する)ほどの<必要性>があるのか?厳しく問われます。
そして、労働者の合意がなくても労働条件を不利益変更しなければならないほどの必要性が確かにあると認められたときでも、それだけでは労働条件を不利益変更することはできません。
労働条件の不利益変更の程度は許容できるものなのか?
そこまで変更しなければならないものなのか?
労働者の代表と真剣に話し合ったのか?
労働条件の不利益変更を労働者が受け入れられる<許容性>があると言えるのか?
<必要性>と<許容性>の両方を満たさない限り、労働者の合意しないのに使用者(会社)が一方的に労働条件を切り下げることはできません。
このことを覚えておいていただければと思います。
【編集後記】
今日(2020/10/21)は久しぶりに多摩湖自転車道をポタリング。
多摩湖堰堤をおりた狭山公園では「すすき」が風に吹かれていました。
秋が深まり、少しづつ冬が近づいてきました。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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