“お前を採用するのにいったいいくらかけたと思ってるんだ。採用されてサッサと辞めると言うならその分の金を払え!”と社長に言われた。どうしたらいいのでしょうか。
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一般的に行う新入社員教育などの研修費用。民法や就業規則の定めた手続きで辞めたら労働者に請求できない。
先日とある交流会(飲み会)で隣の席に座っていた方から聞いた話です。
就職してみたらとても嫌な会社だったので退職を申し出たことがあったそうです。
そうしたら、社長から言われたのが
“お前を採用するのにいったいいくらかけたと思ってるんだ。採用されておいてサッサと辞めるなら採用・研修にかけたその分の金を払え!”だったそうです。
そんなお金は払わされたら大変だと思ってイヤイヤ1年我慢して働いてから会社を辞めたとのことでした。
そんなの払う必要なんかないですよねと笑っていましたが、その当時は今よりもずっと若かったので本気で払わなければならないと思っていたそうです。
短期間で退職した時や、内定を辞退した場合に、企業から研修等の費用の 返還を求められ、トラブルとなる場合もあります。 しかし、企業が一般的に行う新入社員教育に要する費用は、基本的に企業 の負担になります。内定辞退や急な退職は企業にとって大きな痛手ですが、 民法(9 ページ参照)や就業規則等に定められた手続きを満たしていれば、 労働者に対して研修費用等の請求をすることはできません。
『就活必携・労働法』「13 研修費用の返還について」東京都産業労働局
「民法(9 ページ参照)」で書かれているのは民法627条のことです。つまり、労働者が辞職したいと会社に伝えたら2週間後に退職できるということです。
民法627条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
就業規則で民法627条にある2週間より長い期間が定められている場合についての考え方は分かれますが、1ヶ月程度の期間が定められている場合は就業規則で決められた期間を守って辞職した方が一応安心です。
そもそも会社が労働者を辞めさせる解雇については労働基準法や労働契約法その他の法律でさまざまな規制がありますが、労働者が自分から退職する(辞職する)のは原則として自由です。
こちらの記事「仕事を辞めたいのに辞めさせてもらえない。どうしたらよいか?」で、働いている方(労働者)の退職の自由について書きました。
特殊な研修や海外留学の費用。実質的に労働者の退職の自由を奪うものかどうかで返還義務を判断。
一般的に行なわれる新入社員教育や研修とは性格が異なる場合があります。
労働者の技能習得のための費用を会社が負担し一定期間働いた場合はその費用を会社に返還しなくて良いという合意がある場合です。海外留学・海外研修という場合も同じです。
この場合に労働者が一定期間働かずに退職した場合は費用を会社に返還するというという合意が、退職したいと労働者が考えた場合でも労働が強制され退職の自由を実質的に奪うものかどうかで判断されます。
合意が労働が強制され退職の自由を実質的に奪うものかどうか | |
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1 | 特別な技能習得のための研修・海外留学を受けるかどうか労働者が自由に選択できるか? |
2 | 研修・海外留学が業務の一環と言えるか?それとは反対に業務と関連性がうすく労働者のキャリア支援としてもメリットが大きいか? |
3 | 研修・海外留学が終了したあとの拘束期間はどのくらいか?長いのか短いのか。 |
実際には1.2.3.に Yes No で機械的に決まるのわけではありませんので、個別具体的に判断されていきます。
はっきりと言えるのは、一般的に行う新入社員教育などの研修費用。民法や就業規則の定めた手続きで辞めたら労働者に請求できないということです。
損害賠償の予定の禁止
労働基準法16条
(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
辞めるのは勝手だけど辞めたら○○万円支払ってもらうよとあらかじめ損害賠償額を決めておくことは禁止されています。
賠償を求めるときに損害の額を証明していくのは難しいところがありますから、民法では損害賠償の予定をあらかじめ定めておく契約は認められています。
しかし、労働者が会社を辞めたいと思ったときでも損害賠償が予定の定めがあると辞めたいと思っても辞められずに働き続けなくてはならなくなりますから、労働基準法で禁止されています。
『あゝ野麦峠』で幼い女工(未成年の女性労働者)は契約で損害賠償の予定が定められていましたから、工場から逃げ出して家に戻ることはできませんでした。
こちらの記事「『ああ野麦峠』賠償予定・前借金相殺の禁止(労働基準法16条・17条)」で紹介しました。
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一度観ていただきたいと思う映画です。
「万一、私が会社からのいろいろな指導を自分の都合でお願いしているにもかかわらず勝手わがままな言動で迷惑をおかけした場合」「指導訓練に必要な、諸経費として入社月にさかのぼり1か月につき金4万円也の謝修手数料」を支払うという誓約書を労働者に書かせて退職後に請求をした事件がありました。
労働基準法16条に反しているのでこの契約は無効だという裁判例があります。
「サロン・ド・リリー事件」でネットを検索してみましょう。
参考・引用書籍
『労働相談実践マニュアル』Ver.7 日本労働弁護団
『2018年労働事件ハンドブック』 第二東京弁護団労働問題検討委員会
【編集後記】
人と会って話をするのはやはり勉強になりますし面白いです。
今回の記事も交流会(飲み会)で隣の席に座った方のお話に驚いて書きました。
まだまだたくさんの場面で特定社会保険労務士がお役に立てるのだなと。
昨日の1日1新 あんバターナン 新宿西口 インド定食ターリー屋
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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