【障害基礎年金の保険料納付要件】形式的には満たさないが、実質的に満たしていると判断した社会保険審査会裁決がある

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保険料納付要件を満たしていなければ障害年金を受けとることができません。

形式的にみれば保険料納付要件を満たしていなかったので不支給の決定が出された方がいます。

そしてこの方が不服申立てをした結果、「実質的には納付要件を満たしていた」と社会保険審査会で裁決された事件があります。

実質的には納付要件を満たしていたと評価するのが相当である(社会保険審査会)

  • 実質的には納付要件を満たしていたと評価するのが相当である。
  • 保険料納付要件を満たしていないとした原処分は妥当ではなく、これを取り消さなければならない。
  • 保険者は、請求人の当該傷病による障害の状態について、障害の程度を判断すべきである。

平成30年(国)第685号 平成31年3月29日裁決

本件は、請求人が、妄想型統合失調症(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、障害認定日による請求(予備的に事後重症による請求)として障害基礎年金の裁定を請求したところ、厚生労働大臣が、請求人の当該傷病に係る初診日の前日において、保険料納付要件を満たしていないとして、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をしたことから、請求人が、原処分を不服として、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をしたという事案である。

初診日(平成○年○月○日)の前日において
平成○年○月までの国民年金の被保険者期間(a)のうち、保険料納付済期間(厚生年金保険の加入期間を含む)の月数と 保険料免除期間の月数を合算した月数(b)が前記国民年金の被保険者期間の月数の3分の2に満たず、かつ当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの1年間のうち、保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の期間があるため。 保険料納付済期間及び保険料免除期間(b)1月 国民年金の被保険者期間(a)2月」との理由により、障害基礎年金を支給しない旨の処分(原処分)をした

  • 被保険者期間のうち1/3以上保険料未納期間がないこと
  • 保険料支払い期限がきた直近1年間保険料未納がないこと

この2つのどちらでも、保険料納付要件を満たしていないので障害基礎年金(国民年金)を支給しないという決定(処分)が出されました。

たしかに、保険料納付要件を満たさないのであれば障害年金を受けとることができません。

しかし、形式的にみれば保険料納付要件を満たさないのですが、実質的には保険料納付要件を満たしていると判断すべきだとされた社会保険審査会の裁決です。

ここで、保険料納付要件をふくめた障害年金を受けとるための3つの要件をかんたんに確認しましょう。

障害年金を受けとるための3つの要件

この社会保険審査会の裁決(平成30年(国)第685号 平成31年3月29日裁決)でも、障害年金を受けとるために必要な3要件が述べられています。

障害基礎年金の支給を受けるためには、 対象となる傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において国民年金の被保険者で、初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、1 当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被 保険者期間の3分の2以上であるか、又は、2 当該初診日の属する月の前々月 までの1年間が保険料納付済期間と保険料免除期間で満たされていること(以下、 1及び2の要件を「保険料納付要件」という。)、3 対象となる傷病による障害の状態が、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める程度(1級 又は2級)に該当することが必要とされ ている(国年法第30条、第30条の2 第1項、第2項、国民年金法等の一部を 改正する法律(昭和60年法律第34号) 附則第20条第1項、国年令第4条の6)。

障害年金を受けとるために必要な3要件のどれもが、初診日に関わります。

初診日とは、障害の原因となる病気やケガで初めて医師・歯科医師の診療を受けた日のことです。

裁決文のなかで述べられている障害年金を受けとるための3要件を、もう一度まとめてみると以下のようになります。

初診日に公的年金の被保険者であること

初診日に公的年金の被保険者であることが必要です。

公的年金とは国民年金・厚生年金のことです。

障害厚生年金を受けとるためには、初診日の前日に被験者であることが必須です。

しかし、国民年金の場合には例外があります。

国民年金は20歳〜60歳になるまでが被保険者期間なので、20歳未満と国内居住の60〜65未満の被保険者でない方も障害年金(障害基礎年金)を受けとる対象となります。

20歳未満に初診日がある障害基礎年金(国民年金)は20歳すぎてから受けとれます。

20歳未満に初診日がある障害厚生年金(厚生年金)は20歳前からでも受けとれます。

初診日の前日に保険料納付要件を満たすこと

  • 直近1年間保険料未納がないことを満たしている
  • 被保険者期間のうち1/3以上保険料未納期間がないことを満たしている

どちらかで、保険料納付要件を満たしていること。

今回の事件(平成30年(国)第685号 平成31年3月29日裁決)では、この保険料納付要件を満たしているかどうかが審査されました。

障害認定日に障害等級に該当する障害の状態であること

  • (原則)初診日から1年6月経過した日が障害認定日。
  • (例外)1年6月経過する前に治った場合は治った日が障害認定日。

障害認定日に障害等級に該当する障害の状態にあること。

障害認定日に障害の状態になくても、あとから状態が悪化して障害等級に該当した場合は障害年金を請求できます。事後重症請求による障害年金は、請求した翌月から支給されます。

この事後重症による請求は65歳誕生日の2日前までにしなければ障害年金を受けとれませんし、老齢年金を繰上げ受給していた場合も受けとれません。

障害年金を受けとるための3要件のうち保険料納付要件を満たさないとされた決定を取り消して、保険料納付要件を満たしていると判断した裁決(平成30年(国)第685号 平成31年3月29日裁決)

初診日の前日において保険料納付要件を満たしていないとした判断(形式的判断)

  • 直近1年間保険料未納がないことを満たしている
  • 被保険者期間のうち1/3以上保険料未納期間がないことを満たしている

どちらの場合でも、保険料納付要件を満たしていないので障害年金を支給しないと決定がだされ不服申立てを受けた社会保険審査官も支持しました。

請求人は本件初診日(平成○年○月)において国民年金の被保険者であり、本件初診日の前々月までの国民年金被保険者期間は、20歳到達日以後の平成○年○月から同年○月までの2月であるところ、本件初診日の前日において、保険料免除期間はなく、保険料納付済期間は、国民年金の第1号被保険者として平成○年○月の1月であるが、これは国民年金被保険者期間2月の3分の2に足りず、また、平成○年○月から同年○月までの2月間のうちに保険料未納期間があるから、請求人が保険料納付要件のいずれをも満たしていない

実質的には納付要件を満たしていたという社会保険審査会の判断(実質的判断)

保険料納付要件を満たしていないので障害年金を支給しないと決定がだされ社会保険審査官も支持しましたが、さらに不服申立てをした結果、社会保険審査会は社会保険審査官の判断を取り消しました。

実質的には納付要件を満たしていたと判断したのです。

請求人は納付書到着後、速やかに納付していることが認められ、ことに同年○月以降分を前納していることから、本件納付の際に平成○年○月分の納付をしなかったことは、故意によるものでないことは明らかである。

請求人は、初診日の前日において、保険者期間が2か月であるのに対し、これをはるかに超える12か月分の保険料を納付していたのであり、 前記の納付に至る経過も合わせ考慮すると、本件においては、実質的には納付要件を満たしていたと評価するのが相当である

保険料納付要件を満たしていないとした原処分は妥当ではなく、これを取り消さなければならない。保険者は、請求人の当該傷病による障害の状態について、障害の程度を判断すべきである。

【編集後記】

初診日の前日において保険料納付要件を満たしていることは、障害年金を受けとるために不可欠です。

(初診日の前日に被保険者でなかった場合など、例外もありますので、詳しくはご相談ください)

この記事で紹介した事件は、形式的に判断すれば保険料納付要件を満たさないものの、これまでの保険料納付の事実の経過をみれば実質的に保険料納付要件を満たしていると社会保険審査会で判断した例です。

保険料納付要件を満たさない限り、障害年金を受けとれる障害の状態にあるのかどうか?の判断さえされません。

これまで年金の保険料を毎月分払ってこなかった方は、支払期限がすぎた直近1年分をあわせて毎月の保険料を払いましょう。

もしも、経済的な事情で年金保険料を払えないという方は、保険料の免除・猶予の申請をしましょう。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格