労働基準法などの適用を逃れる目的で業務委託・請負などの名称で契約する会社があります。
労働契約なのに「委託」「請負」で契約しないように注意しましょう。
しかし、業務委託・請負などの名称で契約してしまっている方もあきらめずに、自分の働き方の実態を検討しましょう。
労働者であるのかどうかの「労働者性」は、契約の名称ではなく実態で判断されるからです。
『知って役立つ労働法ー働くときに必要な基礎知識』
2020年6月更新版(厚生労働省)から図を引用
Contents
【労働者性の判断】契約の名称ではなく実態で判断される
労働基準法による労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用されて、賃金を支払われる者のことです。
労働基準法9条(定義)
この法律で「労働者」とは職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働者とは、使用者(会社・事業主)の指揮命令を受けて労働を行ない、労働の対価として賃金を受けとる者です。
使用者は指揮命令して労働者を使用し、労働者は使用者の指揮命令に従属して労働します。
使用者と労働者の間には、使用従属関係があります。
受けとった対価(お金)の名称が報酬と呼ばれようと、賃金、給料、手当、賞与その他どんな名称であっても、労働の対償として使用者が支払うものはすべて賃金です。
事業に使用される者で、賃金を支払われる者は、職業の種類を問わず労働者です。
「請負契約」「業務委託契約」で働いている人も、事業に使用され、賃金を支払われる人に該当するなら労働者です。
使用者との間に使用従属関係があり賃金を受けとる者か労働者性を判断する基準には以下のような内容があります。
労働基準法の「労働者」に当たるかどうかの判断
使用従属性に関する判断基準、労働者性の判断を補強する要素。
この2つを総合的に勘案して、
労働者であるのか?労働者ではないのか?個別具体的に判断されます。
<1>「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」であるか?
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
- 業務遂行上の指揮監督の有無(仕事の内容や進め方について具体的な指揮命令を受けていないかなど)
- 拘束性の有無(勤務場所や勤務時間が決められていないかなど)
- 代替性の有無(自分ではなく他の人に代わりを頼むことが許されるかなど)
(2)報酬の労務対償性があるか?
時間給を基礎にして報酬が計算されたり、欠勤した場合にその分の報酬が減らされたりするなど、報酬に労務対償性がないか
<2>「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
1)機械、器具の負担関係(所有関係、負担する金額が著しく高額か)
2)報酬の額(正規従業員と比べて著しく高額か)
(2)専属性の程度
(他社の業務に従事することに制約または事実上困難か、報酬に固定給部分があるか生活保障的な要素が強いか)
(3)その他
(採用・委託などの選考過程などをはじめ「使用者」がその者を自らの労働者と認識していると推認される点があるか)
「労働基準法の『労働者性』の判断基準について」1985年12月19日労働基準法研究会報告(厚生労働省)
労働者なのに「業務委託」「請負」で契約しない
正社員・派遣社員・契約社員・パート・アルバイトなどは「労働者」ですから、労働法の保護を受けることができます。
労働基準法などの適用を逃れる目的で業務委託・請負などの名称で契約する会社があります。
「業務委託」「請負」という契約で働く場合には注意が必要です。
業務委託契約・請負契約は注文主から受けた仕事の完成に対して報酬が支払われるという契約です。
仕事の完成に対して報酬が支払われる契約なので、注文主から仕事の進め方について指揮命令を受けません。
労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者です。
注文主から指揮命令を受けずに、仕事の完成に対して報酬が支払われる人は労働者ではなく「事業主」となります。
仕事の進め方・働き方が実態として、注文主から指揮命令を受けず仕事の完成に対して報酬が支払われている人は「事業主」ですから、「労働者」としての保護を受けることはできません。
「業務委託」や「請負」といった契約で働くことには、注意が必要です。
「仕事の募集があったので応募してみたら業務委託契約、請負契約と書かれていた。」
働くことで応募するときには、契約の中身(実態としての内容)をよく確認しましょう。
「業務委託」「請負」で契約することは十分な注意が必要です。
しかし、労働法は契約の名称ではなく実態で判断することはこの記事の一番はじめに書きました。
たとえ「業務委託」「請負」の名前で契約をしている場合でも、働き方の実態が「労働者」であれば労働法による保護を受けられます。
「労働者」であると認められると得られるメリット。労働者性の判断は専門家に相談しよう
「業務委託」「請負」の名前で契約をしている場合でも、働き方の実態が「労働者」であれば労働法による保護を受けられます。
仕事をする場所・時間を注文主から指定されていたり、仕事の仕方を細かく指示されていたりする場合などは、「労働者」と判断される可能性が高まります。
労働者性は、契約の名称ではなく実態で判断するとはいっても、この判断は専門的な知識が必要になります。
業務委託や請負契約で働いている方で、働く上でのトラブルに遭って「労働者性」について判断が必要な場合には、労働法の専門家に相談しましょう。
「労働者」であると判断されるメリット
「業務委託」「請負」の名前で契約をしている場合でも労働者性が認められると、労働者としての保護を受けられます。
労働基準法関連法令や労働契約法などの労働法による保護を受けるメリットには、例として以下のようなものがあります。
- 解雇の制限・禁止
- 有期労働契約(期間の定めのある労働契約)更新拒絶の制約
- 法定時間外労働割増賃金、深夜業割増賃金、休日労働割増賃金などの支払義務
- 労災保険の適用(個人事業主の場合は自分で一人親方などの特別加入※しなければ保険給付を受けられない。労働者であれば加入なく給付)
- 雇用保険の適用(失業手当(失業等給付の基本手当)など)
- 厚生年金・健康保険の適用(労働者と認められれば私傷病による休職1年6月まで傷病手当金給付、障害厚生年金受給の可能性など)
※労災保険「特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)」厚生労働省
「業務委託」「請負」で契約して働いている方でも労働者と判断されれば、労働基準法や関連法である労働安全衛生法や労災保険法の適用対象となります。
労働契約法の適用対象者となりますから、客観的な合理性と社会的な相当性の両方を備えていない場合は解雇が無効となります。
解雇についての関連記事 一言で言うと「解雇はできない」
「労働者性」の判断は、専門家に相談しよう
労働基準法関連法・労働契約法による保護を受けることができる「労働者」なのかどうか?
働く上でのトラブルに遭って困ったときには、専門家に相談しましょう。
行政機関であれば労働基準監督署などにある総合労働相談コーナーで相談できます。
総合労働相談コーナーのご案内 厚生労働省
行政機関以外でも労働者のための弁護士・日本労働弁護団の方や、特定社会保険労務士の中でも労働者のために活動している社労士に相談できます。
労働者性の問題(判断)で困ったときには、労働問題の専門家に相談してみましょう。
【編集後記】
今日は大学時代からの友人の命日。お墓参りは昨日行ってきました。
亡くなったのは37歳のときだったはずなので18年前?。
電車も空いている路線で駅からは歩いていける場所なので、コロナ感染症が蔓延している今年もお参りできて良かったです。
昨日の1日1新 とあるオンラインセミナーの申し込み(コロナ前は全くオンライン実施していなかった業界のセミナーなのでオンライン開催は助かります)
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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