ある会社から内定が出て内定承諾書に署名・押印して提出した。
そのあとで、ムリだと思っていた会社から内定が出たので、こちらの会社に就職したい。
Q .内定承諾書を会社に出したあとでも内定を辞退できるのだろうか?
A .内定辞退できます。就職したあとでも辞職できるのと同じです。
Contents
内定後の入社誓約で期限の定めのない労働契約が成立
10月1日が内定式という会社が多いという話を聞いたことがありますが、どうなのでしょう?
もうすぐ9月になりますので、来年の春に卒業する学生は就職活動がんばっている人もいるでしょう。
どの会社からも内定の連絡がこないので困っているという人もいますが、
内定承諾書や誓約書など内定が出た会社に就職することを約束したあとで、別の会社で働きたいなど内定を辞退したいという人もいます。
就職活動は人それぞれでいろいろと大変です。
労働契約の成立
労働契約法6条(労働契約の成立)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
就職するときに半年や1年など期間を定めていない場合、期間の定めのない労働契約といいます。
会社から内定が出ることで、あるいは内定に承諾書や誓約書を会社に提出したり内定を受けてこの会社で働くことを伝えることで、あなたと会社とのあいだで期間の定めのない労働契約が成立します。
内定によって労働契約が成立しますが、成立した労働契約は「始期付解約権留保付労働契約」になります。
【内定は労働契約の成立】始期付解約権留保付労働契約
『就職必携・労働法 ー知っておきたい法律と相談窓口ー』 P3 東京都産業労働局
学生に対して内定が出るというのは、
もしも大学を卒業できたら
(もしも大学を卒業できなかったら採用を取り消すという解除条件)
4月1日から採用する
(労働契約の始期)
など始期と解除条件の留保が付いている労働契約、
始期付解約権留保付労働契約が成立したということです。
事件番号 昭和52(オ)94 事件名 雇用関係確認、貸金支払 | |
---|---|
判示事項 | 1 大学卒業予定者の採用内定により、就労の始期を大学卒業直後とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例
2 留保解約権に基づく大学卒業予定者採用内定の取消事由 3 留保解約権に基づく大学卒業予定者採用内定の取消が解約権の濫用にあたるとして無効とされた事例 |
裁判要旨 | 1 大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレツトの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
2 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。 3 企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になつて、右不適格性を打ち消す材料が出なかつたとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。 |
大日本印刷事件 最高裁判所第2小法廷判決 1979.7.20
【期間の定めのない労働契約】2週間前の通告で辞職できる
労働契約も契約ですから、契約の当事者どちらかが解約を申し込んで相手が承諾すれば解約できます。
相手が承諾しなかった場合でも、期間の定めがない労働契約は解約を相手に通告して2週間経過すると解約できると定めたのが民法627条1項です。
民法627条1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
労働者が労働契約を解約することを辞職といいます。
2週間前に会社に通告すると辞職できます。
辞職についての記事はこちら
仕事を辞めたいのに辞めさせてもらえない。どうしたらよいか?
会社が労働契約を解約することを解雇といいます。
民法では2週間前の通告で解雇できますが、労働基準法で30日前にしなければ解雇できないとされていますし、30日前に解雇通告をしても労働基準法や他の法律で解雇制限されています。
また個別の法律による解雇制限に違反していない場合でも、客観的合理性と社会通念上の相当性がない解雇は無効です。
労働契約法(解雇)16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法16条についての記事はたとえばこちら
【解雇理由が納得できない】ときはどうするか
【内定辞退】は辞職と同じ。2週間前の通告で内定辞退できる。
内定が出ると会社に内定承諾書や誓約書に署名・押印して会社に提出するように求められることがあるでしょう。
会社が指定した日に就職することを誓約しますなどと書かれた書類を出したあとでも内定を辞退できるのでしょうか?
結論から言うと、内定を承諾したあとでも内定辞退できます。
期間の定めのない労働契約は2週間前に伝えることで辞職できると書きましたが、内定辞退も辞職と同じです。
2週間前に会社に伝えることで辞職できるのと同じように、
民法627条1項によって、2週間前に会社に伝えることで内定辞退もできるのです。
就職してからでも労働契約の解約・辞職ができるのと同じく、就職前でも労働契約の解約・内定辞退ができます。
内定承諾書や誓約書を出したあとでも内定辞退することができます。
また、内定辞退者に対して会社が損害賠償請求できるか?という問題については、
2週間前に会社に伝えることでいつでも労働契約の解約・内定辞退ができるので、会社が損害賠償請求ができるのは信義則上の義務に著しく違反する態様で内定辞退の申入れが行われた場合に限るとして、会社の請求をすべて認めなかった判決があります。2012年12月28日東京地方裁判所判決(『労働事件ハンドブック』第二東京弁護士会労働問題検討委員会)
会社が内定を取消すことは解雇にあたります。
解雇は法律によってきびしく制限されています。
大日本印刷事件の判決で見たように、大学を卒業できなかった場合など解約権留保付労働契約の条件をクリアできなかった場合にだけ、内定の取消が認められます。
最後にもういちど確認すると、内定承諾をしたあとでも内定を辞退できます。
このことを知っておきましょう。
しかし一方では、人事の担当者をはじめ相手の会社はあなたが就職して働くことを期待して待っているのですから、就職を希望する他社からの内定が出たなどで、内定辞退する場合にはできるだけ早く伝えましょう!
【編集後記】
内定辞退することを伝えると「誓約書を出したのに約束を破るのか〜認めないぞ!」と激昂する会社もあるとのこと。
内定辞退の連絡は誠意のある態度でしたいものですが、相手・会社の態度に関わらず内定辞退する権利があることを知っておきましょう。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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