仕事中にケガをした。健康保険で治療を受けてくれと会社から言われた。
Q.病院で払う医療費の自己負担分はあとで会社が払うから労災保険使わないでくれと言われたけれど、どうしたらいいんだろう?
A.キッパリNo!と言いましょう。仕事でケガをしたら労災保険で診療を受けます。
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労働災害で健康保険を使わないと法律で決まっている
仕事でのケガや通勤によるケガや病気で健康保険は使えません。労災保険を使うことが法律で決められています。
健康保険で病院で診療を受けた場合は医療費の3割をあなたが病院に払いますが、
労災保険を使うと病院にお金を払いません。労災保険が病院に医療費を払うからです。
仕事のケガで健康保険は使わないで労災保険を使うことが法律で決まっていますから、
医療費の本人負担分(3割)を会社があなたに払うから健康保険を使ってくれと言われても、労災保険を使います。
健康保険法1条(目的)
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
健康保険法55条(他の法令による保険給付との調整)
被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
【労災隠しは犯罪】会社は50万円以下の罰金刑
会社は労災事故が起きたときは、労働基準監督署に報告書・死傷病報告を提出しなければならないことが法律で定められています。
様式23号 死傷病報告
労働災害で労働者が死亡したり4日以上の休業をした場合は、様式23号で死傷病報告を遅滞なく提出します。
様式24号 死傷病報告書
3日以内の休業の場合は4半期ごとにまとめて様式24号で死傷病報告を提出します。
【労災かくし】死傷病報告を労基署に提出しないのは犯罪
労基署に死傷病報告を提出しないことは労災かくしです。
会社が労災保険を使わずに健康保険をつかってくれと言うのは労災かくしをするためです。
労災かくしは会社の犯罪です。会社は50万円以下の刑罰に処せられます。
あなたは会社の犯罪に協力してはいけません。
仕事でケガをしたら、健康保険を使わずに労災保険を使います。
労働安全衛生規則97条(労働者死傷病報告)
(1項)事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2項 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
労働安全衛生法100条
(1項)厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2項 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。
3項 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
労働安全衛生法120条
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
5号 第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
労災だと認められると労働者は保護される
解雇制限
仕事でケガをして療養のために仕事を休んでいる間とその後30日間、会社はあなたを解雇できません。
仕事を休まなければならない期間が長引いたときに、会社は別の理由を持ち出して解雇してくるかもしれません。
仕事でケガをして労災保険の給付を受けていれば、解雇されたときにあらためて業務上負傷であることを証明することなく解雇が無効になります。
労働基準法19条(解雇制限)
(1項)使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。
ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
労災保険による補償は手厚い
仕事によるケガ・業務災害と認められると労災保険からさまざまな給付を受けられます。
ケガが治る(治癒・ちゆ)前だけでなく、障害が残った場合にも給付を受けられます。
万が一亡くなってしまったときは、遺族が補償を受けられる制度もあります。
業務災害 | 労災保険からの保険給付 |
---|---|
治癒(ちゆ)前 | 療養補償給付、休業補償、傷病補償年金、介護補償給付 |
治癒(ちゆ)後 | 障害補償給付、介護補償給付 |
死亡 | 遺族補償給付、葬祭料 |
労災保険による給付は手厚くなっているのです。
労働者災害補償保険法7条
この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1号 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
2号 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
3号 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
4号 2次健康診断等給付
会社を辞めたあとも労災保険から給付を受けられる
仕事によるケガで療養のために仕事を休んでいる間とその後30日間、会社はあなたを解雇できません。
会社はあなたを解雇できませんが、あなたが会社を辞めたいと思ったときに辞職するのは自由です。
もしも、労災保険の給付を受けている間に会社を辞職したときでも、
退職後も引き続き労災保険給付を受け続けられますので安心です。
労災保険法12条の5(1項)
保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。
【編集後記】
たとえ会社が医療費の自己負担分をあなたに払うと言っていたとしても、労災で健康保険を使えないことが法律で決められています。
療養のために会社を休んでいる日も給料を払うと言っても、あとからもっと病気やケガがもっと悪い状態になったり休みが長くなったら、会社がいつまでも約束を守るとは限りません。
労災保険なら国が運営する保険ですから会社とちがって安心です。
そもそも労災隠しは会社が行なう犯罪ですから協力してはいけません。
労災に遭ったら労災申請しましょう。
2020/09/01〜複数の会社で働いている方はそれぞれの給料を合算した額で計算されて労災保険の給付額が増えるようになりました。
こちらの記事で紹介しています。
【労災保険】複数の会社で働いている方の給付増える(2020/09/01〜)
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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