勤め人の方は、労使協定、労働協約という言葉を聞いたことがあると思います。言葉が似ていますが意味は全く異なります。
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労使協定と労働協約。日本語の言葉が似ているが、全く別物。
労働協約とは
労働組合法14条(労働協約の効力の発生)
第十四条 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。
労働協約とは、労働組合と使用者(会社)との間で結ぶ労働条件その他に関する契約です。
書面に作成されて、労働組合と使用者の両者が署名または記名押印されて効力が発生する契約です。
その労働組合に加入している組合員はこの契約(労働協約)の内容が適用されます。
労使協定とは
36協定(労働基準法36条に基づく法定労働外時間・休日労働に関する労使協定)を例に、労使協定を見てみましょう。
労働基準法32条(労働時間)
1項
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2項
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
労働協約36条1項(時間外及び休日の労働)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
1日8時間、1週間40時間、これを超えて会社は勤め人の方を働かせてはいけない。これが労働基準法の原則です。
これを超えて勤め人の方が働くと、会社(使用者)は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰を受けます。
しかし、事業場(職場)の過半数代表者が使用者(会社)と36協定(労働基準法36条にもとづく協定)を結んで労働基準監督署に提出した場合は、労働基準法32条違反としての刑罰を会社は免れることができます。
それで、36協定の締結と労働基準監督署への提出をしたい、と会社は思うわけです。
労働協約は契約書。労使協定は労働基準法違反で罰を受けないための書類だから契約としての効果がない。
労働協約は契約。労使協定は労働基準法違反とならない免罰効果のみ。
労働協約 | 労使協定 | |
---|---|---|
締結主体 | 労働組合(労働組合は2人から作れる) | 過半数労働組合なければ過半数代表者 |
適用対象 | 加入組合員 | 事業場の労働者全員 |
締結の効果 | 契約。使用者も労働組合員も労働協約の内容に拘束される。 | 使用者が労働基準法違反による刑罰を免れる(免罰)効力のみ。 |
法的な場面で使われる言葉。日本語なのでなんとなくわかる感じだが、意味を調べましょう
労使協定は契約ではありません。
ですから例えば36協定(労働基準法36条に基づく時間外労働・休日労働に関する労使協定)を締結して所定労働時間が8時間だったとして1日8時間労働を1日1時間延長(残業)することができると書かれていたとしても、会社は勤め人の方に残業させることはできません。
労使協定は契約ではないからです。労働協約で特定の場合に所定労働時間外に働くことが合意されている、または就業規則に定められていなければ、労使協定が締結されていても残業させることはできません。
反対に、労働協約または就業規則で時間外労働をさせることが定められていたとしても、要件を満たした労使協定が締結されて労働基準監督署に提出されていなければ会社は労働基準法違反の罪を犯していることになります。
違法な時間外労働は犯罪ですので会社は労働基準法違反による刑罰の対象となります。
当たり前のことですが、違法が問われるのは会社です。勤め人の方には時間外労働手当(残業代)が支払われなければ賃金全額払いの原則に反します。会社は労働基準法24条違反で刑罰を受けることになります。
法定時間外労働割増賃金の未払いは、訴えると裁判所は未払金の2倍の金額を支払う命令ができることになっています。
労働基準法114条(付加金の支払)
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第七項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
日本語なので何となくわかっているような気になる言葉。
法的な場面では厳格に分かれます。
労使協定、労働協約。全く別物です。
労使協定は労働協約ではありませんが、労働協約をもって労使協定とすることはできます。
それぞれの言葉の意味を見た後でしたらわかります。
働く場面でも法的な問題に日々直面しています。
そんなときに飛び交う言葉は日本語なのでなんとなくわかったように感じますが、要件(条件)と効果(結果)が定められている法の用語ですので、言葉の印象で判断してはいけません。
働く場面でわかっているようでわからない言葉に出会ったら、意味を調べてみましょう。
たとえば、まずは「労使協定 厚生労働省」などでネットで調べてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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