病気やケガで働けずに障害年金や労災保険給付を受けている。
働けずに受け取っている障害年金や労災保険からの給付だけでは生活していけない場合はどうしたらいいのか。
Q.生活保護。名前は知っているが具体的にはどんな保護を受けられるのか?
Q.年金や労災保険給付を受けると、生活保護は受けられないのか?
【他法優先】他の法律や制度を優先し、不足分は生活保護を受けられる
働くことができない状態で障害年金や労災保険給付を受けている方が生活保護を受けられないわけではありません。
障害年金や労災保険給付を受けるか?それとも生活保護を受けるか?選択するものでもありません。
障害年金や労災保険給付など他の法律や制度から給付が受けられるときはそちらを優先して受けます。
しかし、障害年金や労災保険給付などを受け取っても健康で文化的な生活水準を維持できない場合には、その不足分の生活保護を受けることができるのです。
また、他の法律や制度を優先して受け取るといっても、障害年金を受ける労災保険給付を受けるための請求手続きをして受け取りはじめなければ生活保護を受けられないという意味ではありません。
障害年金や労災保険給付の請求手続きは場合によってはとても複雑ですし準備や請求後の決定までに長い期間がかかることもあります。
生活が困窮していてすぐに生活保護を受け始めないと困るときは、まずは生活保護の申請をしましょう。
生活保護法4条
(1項)保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2項 民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3項 前2項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
【生活保護】受けられる保護は8種類
生活保護法で保障される最低限度の生活とは、単純に食べていられることではありません。
生活保護法で保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持できることを言います。
生活保護法3条
(最低生活)
この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
健康で文化的な生活水準を維持できるように、8つの種類に分けられた扶助を生活保護で受けます。
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
---|---|---|
日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等) | 生活扶助 | 基準額は、 (1)食費等の個人的費用 (2)光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算、障害者加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払(本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払(本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
【生活保護】生活困窮者は誰でも申請できる
戦後制定された日本国憲法では、国民の基本的人権の1つとして生存権が保障されています。
日本国憲法25条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
だれでも健康で文化的な最低限度の生活ができるように国家に対して求めることが保障されています。
生活に困窮している人は誰でも生活保護を申請することができるのです。
生活保護の申請があったら、原則として申請日から14日以内に保護を開始するかどうかの決定をして通知しなければなりません。
生活保護法24条
3項 保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。
4項 前項の書面には、決定の理由を付さなければならない。
5項 第三項の通知は、申請のあつた日から14日以内にしなければならない。ただし、扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には、これを30日まで延ばすことができる。
日本国憲法が制定されるまで日本には生存権を保障するという考え方はありませんでした。
戦前の救貧法では、労働能力のある者が除外されていました。
戦後に制定された旧生活保護法では、保護対象について無差別平等原則を採用し「生活の保護を要する状態にある者の生活を国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護」することが明記されました。
しかし、旧生活保護法では無差別平等が原則とされながらも、素行不良者・怠惰者・扶養をなし得る扶養義務者を有し急迫した事情がない者は保護を認められませんでした。
戦前の救護法や戦後の旧生活保護法では生活困窮の原因によって保護するか保護しないかを定めて、差別した取り扱いをしていました。
現在の生活保護法では、法律による保護を無差別平等に受けることができることが規定され、生活困窮の原因は問われません。
現在の生活保護法では、生活に困窮しているかどうかだけで判断して保護が行われます。
生活保護法2条(無差別平等)
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
生活保護法1条(この法律の目的)
この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
ここでいう「自立」とは、生活保護からの離脱だけを意味するものではありません。
たとえば、生活保護や他の制度を利用しながら尊厳のある1人の人間として人格的な自立を目指していくことも「自立」として尊重される必要があります。
日本国憲法13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
【編集後記】
障害年金や労災保険給付?それとも生活保護か?ではありません。
年金や労災保険の給付を受けとりながら、生活保護も受けられます。
そして将来、働くことができるようになって収入がふえて生活保護を受けないことになったときでも、障害年金は収入に関係なく受け取り続けることができます。
障害の状態にある方は障害年金を請求し受け取れるようにしましょう。
そして、受け取る障害年金の額では生活が困窮する場合は生活保護の申請をしましょう。
ただ生きられるかどうかではなく、私たちは1人ひとりが健康で文化的な生活を営む権利を持っています。
生活保護は御上(おかみ)から恵んでいただく恩恵ではなく、日本国憲法で保障されている人権です。
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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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