25年以上路上生活者の支援活動を続けてきている稲葉剛さんの新刊『閉ざされた扉をこじ開けるー排除と貧困に抗うソーシャルアクションー』。大人の貧困は自己責任とする考え方が強いため生活に困窮している人々が声を上げにくい状況で貧困層はますます「見えない」存在にさせられていく。本書は「見えない人々」の側から社会を見ていこうという試みであるとはじまります。
Contents
“ホームレスは臭いので避難所に入れないのは当然”。家族が認知症になって行方不明で路上生活になっても同じこと言える?
昨年(2019年)10月台風19号。「ただちに命を守る行動を」と気象庁が呼びかけテレビでもニュースでアナウンサーから連呼されていたのが記憶に残っています。
台東区災害対策本部の決定で住民票が台東区にないという理由でホームレスの方が避難所に避難することを断られたという事件がありました。
抗議の声が大きく上がり台東区長から後日すぐに謝罪がありました。
本書によると抗議の声の反面でSNS上で路上生活者が発する臭いの問題から排除を肯定する意見も多数見られたとのことです。P44
「ホームレスは臭いので避難所に入れないのは当然」だと言っている人に私が聞きたいのは、「では、あなたの家族が認知症になって行方不明になり、路上生活になっても同じことを言えますか」ということだ。
P46
自分と同じ立場ではない方に対して同感できない方でも、その立場であればそうかもしれないという共感を学ぶ必要があります。
自分の親(親子関係によって例えがよくない場合もありますが)が認知症で徘徊して行方不明になって路上生活をしていたときに、台風などの災害時に臭いから避難所にいれたくないと言われたと考えたら、とても誰に対してもそんなことは言えないはずです。
本書「おわりに」の「閉ざされた扉が開いても」に
扉の内側に差別や偏見が満ちていれば、実質的に締め出される人はいなくならない
とあります。
私たちは第4章「見えなくさせられた人たちとつながる」にある幅広い活動に何らかの関わることで扉をこじ開ける活動に参加する必要があり、「見えない人々」の側から社会を見て扉の内側に差別や偏見に満ちた自分に気づき変わっていく必要がある。
このことを本書を読んで感じます。
社会的排除とは何か?
「社会的排除とは、物質的・金銭的欠如にもならず、居住、教育、保健、社会サービス、就労などの多次元の領域において個人が排除され、社会的交流や社会参加さえも阻まれ、徐々に社会の周縁においやられていくことを指す。社会的排除の状況に陥ることは、将来の展望や選択肢をはく奪されることであり、最悪の場合は、生きることそのものから排除される可能性もある」
EUにおける社会的排除の定義を引用した上で説明された2012年内閣官房社会的包摂推進室が中心となって取りまとめられた報告書からの引用した「はじめに」P9
世代を越えて拡大する住まいの貧困
『閉ざされた扉をこじ開けるー排除と貧困に抗うソーシャルアクションー』稲葉剛著(朝日新書) | |
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はじめに | |
第1章 | 2020年東京五輪の影で排除される人々 |
第2章 | 世代を越えて拡大する住まいの貧困 |
第3章 | 最後のセーフティネットをめぐる攻防 |
第4章 | 見えなくさせられた人たちとつながる |
おわりに |
本書は4章で構成されていますが、第2章世代を越えて拡大する住まいの貧困には驚かされました。
年配者や生活保護利用者や精神障害者の方は住まいを得る(アパートなど賃貸住居に入居する)ことは他の方よりも苦労するということは漠然とは知っていました。
しかし、親などに保証人や緊急連絡先を頼めない事情の若者なども含めて、老齢などの特定の世代に限らず住まいを得る(アパートなど賃貸住居に入居する)ことに困難な状況にある方が広く存在していること、ここまで申告な問題に鳴っているということは本書を読んではじめて知りました。
住まいの差別を禁止するフェアハウジング法が必要だ
アメリカには公民権運動の流れの中で構成住宅法が1968年に制定され1988年修正をへて現在の法律では住まいの賃貸・売買について、人種・皮膚の色・性・障害・婚姻(家族状況)・国籍を禁止している。P102
私も賃貸住宅に住んでいますがこの夏で55歳になります。
この先70歳80歳と幸い長生きできたとして住んでいるアパート・賃貸マンションが取り壊しで出ていかなければならないとき、新しい住まいを得る(賃貸住宅に入居する)ことが困難になることに驚きました。
本書を読んで、住まいの差別を禁止するフェアハウジング法が必要だと感じました。
「東京人」としての市民意識を醸造する。誰も路頭に迷わせない東京をつくる。
約1年前となる2019年4月1日から外国人労働者の受け入れが拡大されました。
就労先で「契約に基づいて」パスポートを取り上げて就労先を退職して他で働くことができないようにしている行政書士が問題になっています。
そのほかにも外国人労働者が労働基準関連法規が守られない状況で働かせられている問題が多く報告されています。
東京都いう街の多様性を確認し、分断を越えて多様な人々との共生をめざす「東京人」としての市民意識を醸造する
P201
提起がなされています。
私自身は、○○人というくくりが好きではありません。
“同じ○○人同士じゃないか”。“男同士だわかるだろう”。“同じ○○大学出身者だから仲間だ”
反対に“○○人ではない△△人同士”。“男ではない女同士だから”。
という属性に基づく集団主義が嫌いです。1人ひとりの個人を単位に考えたいと考えています。
ですから、” I Love NewYork ” とか ” I Love Tokyo ” というのは嫌だなと思っていました。
ところが、NEWYORKER(ニューヨーカー)としてのアイデンティティとは偏狭なナショナリズムを越える形で存在していると著者は考えています。
もともと移民国家としての歴史を持つアメリカでも、「アメリカン・ファースト」を掲げるトランプ大統領が就任して以降、移民に対して厳しい政策が採られるようになった。トランプは、一部の不法移民は「人ではなく動物である」とまで言い、差別と排外主義を煽っている。
こうした移民排除の動きに対して抵抗しているのが、不法移民に寛容な政策をとってきたニューヨーク、ロサンゼルスなど「サンクチュアリー・シティ(聖域都市)」と呼ばれる大都市である。これらの都市や一部の州は、不法移民を拘束し、国外退去させるよう求める大統領令に対して裁判闘争まで行い、抵抗し続けている。
その抵抗を支えているのは、都市とは本来、多様な人々によって作られる場であるとする市民意識ではないだろうか。
ニューヨークであれば、世界各地から来た多様な人々と共生をしてきた「ニューヨーカー」としてのアイデンティティが、偏狭なナショナリズムを越える形で存在しているのではないかと考えるのだ、
こうした「聖域都市」の経験から、私たちも学ぶことができると私は考えている。
P199-200
都市とは本来、多様な人々によって作られる場であるとする市民意識としての「東京人」であれば、私も大賛成です。
1人ひとりの個人、多様性を認め合う市民意識としての“私たち”という共通性・共同意識としての「東京人」としての市民意識の醸造に1人の市民として参加していきたいと考えることができた1冊です。
社会的排除、住まいの貧困、生活保護、見えなくさせられた人たちとつながる具体的なソーシャルアクションの問題まで幅広くはじめて知る方にもわかりやすく書かれている読みやすい新書。
あなたも読んでみてはいかがでしょうか?
Amazon 閉ざされた扉をこじ開ける 排除と貧困に抗うソーシャルアクション (朝日新書)
【編集後記】
“埋蔵金”という切り口は1つの上手なレトリックだったのかと思います。
しかし、“○○を削って福祉に回せ”というスローガンをタブーにしてはいけないのかもしれないと最近考えはじめてもいます。(未来の世代に国の借金を押し付けるようなこともいけませんが)
昨日の1日1新 NPO法人 JIM-NET のチョコ
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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